フリーランスでWeb制作チームを作ろうとして失敗した僕が経験から言えること

フリーランスは基本的に、一人ですべての業務をこなさなくてはなりません。
でもフリーランスの人同士でチームを作れば、お互いの不得意分野をフォローし合い、それぞれの得意分野で思う存分に力を発揮することができます。
そんな事情もあり、フリーランスとして活動する人の中には、チームを作って仕事に取り組んでいる人たちも結構います。
しかし、中にはチームで働くことに興味はあっても、
- どうやってチームを作ればいいのか分からない…
- チームのメンバーとうまくやっていけるか不安…
という人もいると思います。
実は僕も今、Web系フリーランス同士でチームを作って働いているわけですが、過去にはチーム作りでいくつも失敗してきました。
今回はそんな僕の失敗経験をもとに、フリーランスでチームを作ることの意義や注意点ついてお伝えしたいと思います。
目次
フリーランスでチームを作ろうとして失敗した僕が経験から言えること
フリーランスでチームを作ることは別に珍しいことではなく、これまでに作ろうとしたことがあるとか、今もどこかのチームに入っているなんて人もいるのではないかと思います。
とはいえ実際には、開店休業状態のチームも多いみたいです。
クラウドソーシングサイト『ランサーズ』にはフリーランスチームの一覧ページがありますが、そこに登録されているチームのうち、稼働中のものは全体の4%にも届きません。
理由はいくつかあると思いますが、
- もともと独立志向の強い人の集まりのためまとまらない
- チームとして機能するために必要な人材がいない
- チームを引っ張っていくリーダーが不在
などが考えられます。
たしかにチームで活動すると、一人でやっているときには発生しない作業が発生したりするため、目的やメリットがハッキリしていないと高い確率で空中分解します。
とはいえ、フリーランスがチームを作ることには、一人でやっていく場合にはないメリットがいくつもあります。
かく言う僕も、セールス担当メンバーと制作担当メンバーとの意識のズレや、メンバー間でのスキルの開きなどが原因でモメたり気まずくなったり、ついには解散したりということを経験しました。
でも、フリーランスがチームを作ることには、そうした苦労を補って余りあるほどのメリットもあります。
チームで働くことのメリット
フリーランスがチームで働くことのメリットには、どんなものがあるでしょう?
ここでは、主なものを5つ挙げてみます。
それぞれの得意分野に注力できる
苦手なことはそれが得意なメンバーにやってもらい、自分は得意なことに集中できます。
もちろんそのときのメンバー個人の受注状況などによっては完全に分業ができませんが、それでも一人ですべてをこなさなくてはいけないことに比べれば、心身ともに負担を軽減できます。
またある程度チームの規模が大きい場合は、案件の内容によってメンバーの組み合わせを変えることで、より幅広い案件に対応できるようになります。
たとえば女性向けのホームページの場合は、より顧客目線で考えられる女性メンバーで構成するというような感じですね。
全体的な成果物の品質が向上する
メンバーそれぞれが得意分野に注力することで、チーム全体としての成果物の品質が向上します。
その結果、受注する案件の単価を底上げすることにもつながります。
チームで制作する場合、当然ですが各メンバーに入る1案件あたりの報酬は小さくなります。
ですが分業することで受注を安定させ、かつ単価も上げることができるというわけですね。
ワンストップでサービスを提供できる
すべてを完璧にできるフリーランスはいません。
「デザインは得意だけどプログラミングは…」とか「プログラミングはできるけどSEOはあまり詳しくない」というのが自然です。
そのため自分が苦手なことに対応するときは、その都度、外注しなければなりません。
場合によっては、クライアントの方で制作を依頼する業者、マーケティングを依頼する業者… というような感じで別個に依頼する手間がかかってしまうかもしれません。
しかしチームで受注する場合、受注から納品までのすべての工程にワンストップで対応することだって可能になります。
メンバー間で情報交換&スキルアップが図れる
それぞれ得意分野の違うメンバーで構成されていると、お互いの知っている情報を交換したり、スキルに関するアドバイスなどが得られます。
そうすることでチーム全体としてのスキルがアップしますし、各個人で案件を受注する場合にもそのスキルを活かすことができます。
実際、ひとことで「Web制作」と言っても、その取り組み方には個々人で違いがあります。
自分と違う進め方をする人の考えやスキルを吸収することで、より効率的に・より高品質なものを制作できるようになるわけです。
受注できる仕事の幅が広がる
一人のときには「これは苦手だから…」と避けていたような案件も、躊躇せず獲りに行くことができるようになります。
そうすることで、これまでは取りこぼしていた案件から売上をあげることができるようになりますし、「数」もこなせるので経験値を積むことにもつながります。
逆にデメリットはないのか?
チームで動くことにデメリットがないかと言えば、正直いくつかあります。
メンバー間のすり合わせが必要になる
一人でやっているときには、スケジュールや制作手順などにも、ある程度は融通が利きます。
しかしチームで動く場合、後工程のメンバーへ引き継ぐまでに自分の仕事を終わらせておく必要があります。
また制作の方針やマーケティング戦略、仕様、完成イメージなどあらゆる面でメンバー間ですり合わせをしておかないと、あとで「こんなはずじゃ…」となってしまうこともあります。
一人のときより工数がふくらむケースも
メンバー間で分業する場合、一人のときには必要のなかった資料などを作成する必要が出てきます。
結果、一人で制作にあたる場合よりも案件全体の工数がふくらむケースが多いです。
そのあたりを見越して見積もりを出さないと、実際に制作に入ったら割りに合わないということになりかねません。
フリーランスのメリットがなくなる可能性
フリーランスの大きなメリットとして、自分のペースで自由に働けるというものがあります。
しかしチームで働く場合には、はやりそうした自由に一定の制限が生まれます。
他のメンバーのスケジュールの都合上、少し急いで仕上げないといけないとか、逆にスケジュールに穴が空いてしまうということもあり得ます。
また、「メンバー全員に仕事が割り振られるように」という方針で動いている場合、担当するメンバーのスキルによっては妥協せざるを得ない場面も出てきます。
油断すると仲よしサークルみたいになる
フリーランスは自由ですが、それと同時に孤独でもあります。
チームになって「仲間ができた!」と必要以上に依存しあう関係になると、本来の目的を忘れてただの仲よしサークルみたいになってしまいます。
フリーランスがチームを作る目的は、
- 作業効率化
- 品質向上
- 受注安定化
- 単価底上げ
のどれか、またはすべてです。
この目的意識が薄れてしまうと、かなりの確率でチームが機能不全に陥ります。
フリーランスのWeb制作チームに必要な人材
フリーランスのWeb制作チームには少なくとも以下のような人材が必要になります。
営業(セールス)
案件を獲ってくる、チームのフロントマン的なポジションです。
中には元デザイナーなど制作出身の人もいますが、必ずしも制作ができる必要はありません。
とはいえ、Web制作におけるごく基本的なことや、大まかな制作の流れだけでも頭に入れておくと断然働きやすくなるでしょう。
Webディレクター
制作の進捗を管理したり、クライアントとのコミュニケーション、マーケティング、仕様定義など制作の上流工程を担当するポジションです。
大手の制作会社ではマーケティングなど企画の部分はWebプロデューサー、制作にかかわる業務はWebディレクターを置くことが一般的ですが、フリーランスの制作チームではそこまで人材を確保することが難しいのが実際のところです。
そのため、ディレクターがプロデューサーを兼任するのが現実的でしょう。
Webデザイナー
Webディレクターが整理した情報をもとにホームページの見た目の部分をデザインしていくポジションです。
「見た目の部分」とは言いましたが、ただキレイに作ればいいといいわけではなく、ホームページの目的を達成するため、またディレクターの意図をくみ取ってデザインに反映させるスキルが求められます。
Webエンジニア
マークアップ、フロントエンド、バックエンドなどのコーディングやプログラミングを行うポジションです。
HTMLマークアップはそうでもないですが、プログラミングは他と比べてスキル習得の難易度が高いです。
そのため業界全体でみても人材不足で、チームとして稼働するにはエンジニアを迎えることができるかどうかにかかっているところもあります。
またエンジニアのスキルによって対応できる案件の幅も変わってくるため、チーム内でも特に重要なポジションだと言えるでしょう。
その他、いるとベターな人材
これに加えて、
- フォトグラファー
- イラストレーター
- 映像クリエイター
などを迎えることができれば、Web制作チームとしてはかなり盤石な体制が整うのではないかと思います。
特に今後は動画の需要が伸びてくると言われていますので、動画の編集・制作ができる映像クリエイターがメンバーがいれば、案件獲得に有利に働く可能性があります。
メンバー集めの方法とコツ
では次に、どうやってメンバーを集めればいいのか、その方法やコツなどについてお伝えしたいと思います。
メンバーを集める方法
過去に一緒に働いた人に声を掛ける
一番確実で、一番ハードルの低い方法です。
過去に参加した案件で一緒に働いたことがある人であれば、人柄や能力、相性なども分かっていると思います。
こちらから十分なメリットが提示できれば、誘いに応じてくれる可能性はあるでしょう。
SNSで声を掛ける
TwitterやFacebookなどのSNSでクリエイターを見つけて声を掛ける方法です。
面識のない人でも、地域や年齢・性別などに縛られずコンタクトを取れるのが大きなメリットです。
ただ、SNS上だけではスキルの判断がつかないことが多いので、プロフィール欄などからその人のポートフォリオサイトなどを確認して見た方がいいでしょう。
また、日本人ではまだあまりいませんが、インスタグラムで自分の作品をアップしているクリエイターもいます。
Webデザイナーやフォトグラファーなどを見つけるにはおすすめです。
ポートフォリオサイトを巡る
地道にネットサーフィンしてフリーランスで活動しているクリエイターを見つける方法です。
SNSは地域に縛られずにメンバーを探せるのがメリットでしたが、この方法は逆に地域などを指定して探せるので、「こんな人に出会いたい」というのがある場合には効果的です。
また自分のサイトに「メンバー募集」見たな感じでページを作っておくと、それを見たクリエイターさんが連絡をくれることもあります。
メンバー集めのコツと注意点
営業マンをチームに引き入れるには?
上でエンジニアの確保が重要という話をしましたが、営業マンも専業の人を見つけようとすると、実はかなりハードルが高いです。
というのも、優秀な営業マンほどセールスに長けているわけなので、不動産や保険、投資商品など利益の大きいものを商材として扱っているケースが多いからです。
そういうものと比べると、ホームページはやはり利益が小さくなってしまうため、営業マンにとっては売るメリットが小さくなってしまいます。
そういうときにおすすめしたいのが、他の商材を扱っている営業マンに「自分がWeb制作をやっている」ということを伝えておいて、ニーズのあるお客さんに会ったらつないでもらうという方法です。
この方法であれば、営業マンからすればある意味”ついでに”売ることができてお金になるわけなので、決して悪い話ではないはずです。
また営業マンは仕事柄、経営者などのWeb活用を考えている人に会う機会が多いです。
こういう形で連携をとることで、案件獲得のチャンスを大きくすることができます。
また、必ずしもセールスを職業としている人にこだわらず、「人と会う機会の多い」という基準で考えるとさらに広がります。
たとえばですが、行きつけの飲み屋やカフェのマスターなどに話を通しておくことで、そこから仕事の話が降ってくるかもしれません。
そういったところから種をまいておくのもアリだと思います。
アート色の強いデザイナーは注意
デザイナーの中には、個性やオリジナリティに重きを置く人もいます。
それを否定するわけではありませんが、仕事としてWeb制作を請け負うことを考えた場合、そういう人をメンバーに加えるとチームとして動きにくくなる可能性が高いです。
僕たちのようなフリーランスが制作を請け負うサイトは、そのほとんどが商用です。
商用サイトの目的は、突き詰めればすべて「売上」です。
ですので、売上を最大限にするための選択が、いつもベストとされます。
そういう意味では、UIが独特すぎて使い方が分からないとか、キレイなのはいいけど読み込みに時間が掛かりすぎて待ってられないというようなサイトを作ってしまってはマズいわけです。
「売る」という目的のために、いい意味で“ありきたり”を受け入れることができる潔さのあるデザイナーがいれば、どんどん声をかけましょう。
失敗した経験者が語るチーム作りの注意点
最後に、僕がこれまで失敗してきた経験から、チームを作る上で注意したいことについてお話しします。
リーダーは必要だけど、上下関係は作らない
いきなり難しいことを言いますが、チームである以上、稼働するにはやはりリーダーは必要です。
でも、そこに上下関係を作ると破たんすることが多いです。
そもそもフリーランスになるような人って、組織の中の上下関係が嫌だからフリーでやってるというところもあります。
それなのにチームに入ることでそういう窮屈な関係を作ってしまっては本末転倒ですよね。
また、担当する工程に上流・下流の違いはあれど、すべての工程はWeb制作に必要なものです。
だから、上流工程の人ほど発言権を持っていたり、下流の人ほど負担を強いられるような関係ではチームが長続きすることはありません。
僕の場合、はじめてのチームのときに営業兼ディレクターをリーダー的ポジションに据え、僕は制作に集中しようと考えました。
しかし時が経つにつれ、そのリーダーが横柄になり、制作側を雑に扱うようになりました。最終的にお互い尊重し合えないと判断したためチームを解散しました。
フリーランスは、それぞれが独立した事業者です。
だからフリーランスのチームにおいて、リーダーとはあくまで「リーダー」の役割を担うポジションなだけで、一番偉いというわけではありません。
そこをはき違えてリーダーがメンバーを部下のように扱うようになると、チームは空中分解します。
プロ意識のある人を仲間にする
フリーランスの中には、まだ「自分探し」の途中みたいな人がいます。
そのタイプの人は、他に何か面白そうなものを見つけると、途端に目の前のことが疎かになります。
そうなると、チームとして作るものの品質に影響が出てきます。
なので、たとえ他に興味が移ったとしても、今かかっている案件だけは責任を持って仕上げる程度の「プロ意識」がある人でないと仲間にしてはいけません。
クライアントからお金を頂く以上、「好き・嫌い」で仕事をしている場合ではありません。
プロとして、クライアントの要望より以上のものを返す姿勢は必要になるので、まだ軸足のフワフワした人を仲間にするのは避けた方がいいでしょう。
スキルレベルに差がありすぎるとチームは機能しない
メンバー間でスキルに差がありすぎると、チームはうまく機能しません。
スキルの高い人からすれば成果物の品質に不満が溜まりますし、スキルの低い人からすれば能力以上のものを過剰に求められるため、心身の負担が半端じゃないです。
より品質のいいものを出すためには、スキルの高い人を引き入れることも大切ですが、それが原因でチームが機能不全になることもあるので注意が必要です。
「コスパがいい」とか言い出すとしんどくなる
「フリーランスなので制作会社に比べてコスパがいいです」など営業をかけていると、間違いなくしんどくなります。
フリーランスと言えどチームなので、そこにはメンバー間の連携など「目に見えないコスト」が発生します。
そこを無視して安直に「フリーランス=個人=固定費がかからない」と考えると、高い確率で見積もりなどで下手を打ちます。
そもそも、「低価格」を押したいならチームは不向きです。
チームを作る最大のメリットは、品質を上げ、価格を上げ、作業効率を上げることで納期を早め、受注の安定化を図れることにあります。
そしてそれにより、クライアントによりよいモノを提供し、フリーランスも低単価で疲弊しない働き方を実現できるわけです。
一人でもやっていける人だけで構成する
上で言ったこととカブりますが、メンバー間のスキルに開きがあったり、依存体質の人がいたりするとチームはうまいこと回りません。
最低限、フリーランスとして一人でも活動できるレベルの人を、仲間に迎えるようにしましょう。
もちろんメンバー同士でアドバイスや相談ができるのはいいことですが、そういう建設的な関係ではなく「分からないから代わりにやってください」みたいな人がいると一気に関係がギクシャクします。
報酬についてのルールを決めておく
報酬の分配については、事前に取り決めておくのがおすすめです。
その都度相談していると時間がかかって仕方ないですし、そうした手間がかえって利益を圧迫します。
もちろんメンバー構成や案件内容によって、ディレクターが営業を兼任したり、デザイナーがマークアップまで担当したりということはあると思いますので、作業項目ベースで報酬を決めておくとスムーズだと思います。
連絡手段を決めておく
営業と制作では、畑が違うために意識が違う部分がたくさんあります。
たとえば、営業は「作業中に電話がかかってくること」がエンジニアにとってどれだけしんどいかということに無頓着です。
逆にエンジニアは、「制作知識のない営業がクライアントに会って話をまとめてくる」しんどさがイメージできません。
チームでやる以上、まったく違う分野の人がコミュニケーションを取ることは避けられません。
お互いに理解する姿勢を持ち、譲歩するところ、妥協できないところを話し合い落としどころを見つけるしかないと思います。
忠誠心や帰属意識は必要ない
フリーランスのWeb制作チームに、忠誠心や帰属意識は必要ありません。
それぞれが売り上げのためにお互いを利用し、利用される関係でいいと思っています。
そもそも、メリットがなければチームを作る意味はありません。チームに精神的な貢献まで求め始めると、途端に息苦しい関係になってしまいます。
フリーランスは、最後の最後に頼れるのは自分だけです。
そこをなあなあにして依存するようになってしまうと、かえってチームとしてのパフォーマンスは低くなります。
フリーランスという種類の人間は、ドライな関係の方が団結力が強くなるのです。
まとめ
以上、フリーランスのWeb制作チームを作ろうとして失敗してきた僕が、経験から言えることをまとめてみました。
ここに書いたことは、もしかしたら一般的な組織作りとは考え方が違うかもしれません。
僕自身、ここに書いたことが正解だという気もありません。
とはいえフリーランスやるような人って、集団に加わることが嫌いだったり苦手意識を持っていたりする人が多いです。
そういう人たちがチームを組むわけなので、やはり会社の中での組織作りとは違うアプローチが必要になるのではと思っています。
ということでフリーランスのチームを作る際には、ここに書いたことも頭の片隅に入れておいて頂けたらうれしいです。